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人生は驚きに満ちている

 配偶者もそうだが、筆者は元々「(職人芸を含めて)人のやれる事は自分にもやれるはず、しかももっと上手く」と考えるタチで、厚かましさは似たもの夫婦。先の五十過ぎのK君も共通した考え方を持っている。

 長い人生を生き抜いて来た者だけが知る、「人の能力はみな似たり寄ったり・やれば出来る・要はやるかどうか」という人生の根源を問い直す哲学から来ている。経験未熟な若者にはない、年配者の一種の自信である。


 最近は筆者の職人仕事も堂に入って、鉄を削るのに「バリの出ない加工方法」を考案したり、新しい切削工具を取り寄せて鉄をカステラみたいにさくさく切削して、従来30分掛かっていた仕事を5分で仕上げて得意がっている。大抵の小物部品を図面も見ずに(=自分で描いた図面だから寸法を丸暗記している)、10分以内に作ってしまう。中古機械のくせに、超精確仕上げだからバカには出来ない腕だ。


 筆者の機械の使い方は、ジャズ演奏みたいに、アドリブが入る。加工の途中でチラリとアイデアが浮かび、勝手に図面の内容を変更するのだ。図面で斜面角度3.5°の加工部分を、わざと間違えた振りをして5°に加工してみる。5°なんて論理的にはあり得ないばかばかしい急斜面なのだがーーー。


 間違って出来上がったのを使って試しに実験してみると、あにはからんや案外上手く行くことがある。論理的に考えてあり得ない事で、手に持ったボールを放したら、下へ落下する代わりに空へ舞い上がったみたいなものだ。


 一体何故結果が上手く行ったのか?? 喜ぶ代わりに不可解さを、三日かけて朝から晩まで考えて究明する。 学者も気づかない常識をくつがえす知識の発見、に繋がる事が時々ある。人生は驚きに満ちていると言えば大袈裟だが、これがなかなか面白い。

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