ああ、残念!
実は筆者の配偶者も、歳が入った今頃になって似たことを言っている。彼女は筆者より七つ年下とは言え同じく古いタイプの人間だが、最近になってこんな威張り方をする:「私は大した人間よ」
自分の業績を触れて回ることに躊躇しないタイプの女だが、そう聞いてもこっちは何をいまさらとまゆ一つ動かさない。
「もし生まれ変わったら、気の毒だけれど貴方とは結婚しない。恋人を持つとは思うけれど、誰とも結婚しないわ。夫の為にも生きないし、家族の為にも生きない。自分の為に生きたいからよーーー。折角生まれて来たんだから、好きなように生きたい」
何時の間にかS子とまるで同じで、配偶者も新しい女へ変身して不穏な結論を導き出したから、油断が出来ない。けれども配偶者の歳では何もかも手遅れだから、こっちは安心でやはり動揺はしない。
筆者の口から言うのも何だが、配偶者はしっかり者で、能力の面でも判断力でも平均的な女性より優れていると思うし、知らない事でも正確に推測出来る。だから(筆者と結婚してなければ、自分には大きな可能性と別の人生があったかも知れないという)彼女の「ああ、残念!」な気持ちが分からないでもない。
けれどもーーー、と筆者は考えるのである。




