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意地悪な女の子

15.意地悪な女の子


 体の辛さで、殆ど口を利けなかった。それでも時々短く「あと どれくらい?」とだけ、息切れの中で繰り返し訊いた。女は毎回「もうちょっと」と手短に応えるばかりで、慰めの言葉はかけらも無い。ともすれば私との距離を開けようとする気配さえある。 

  

 普段苛めっ子にぶたれて泣かされる事はあったが、女の子にそうされた事は無い。女の子は、特に上背のある子は何か母性の崇高さを思わせて、心優しいものと信じていた。けれども時々むら気があって一旦気に入らないとなるとツンツンし、女の子の苛め方は手を出さない分底意地が悪く、むしろ男の子より陰湿である。


 そんな相矛盾した面が同居している女は、幾つになっても男にとって不可解な存在で神秘的に感じさせる処がある。因みに私は大人になって年下の女と結婚した時でさえ、女とは何処か得体の知れない秘密を隠し持っている気がした。どうかすると、何時もある種の恐れを覚えたものだ。

そんな女の特殊性を、当時私も子供心ながら幼い防衛本能で薄々気付いていた。


 追いついた時に思わず、そっと窺うように女の横顔を見た。美しい顔だのに少しも笑わず、能面のように無表情であった。始終口数が少ないのも冷淡さを感じた。何時までも茶店が現れない心細さと女の無表情冷淡さの中に何か影を感じて、次第に自分は女に「騙されているのではないか」という気がして来た。


 やがて道の判らない処へ連れ込まれて、そのまま山中に置き去りにされるーーー。これは、もっとも残酷な刑だが、意地の悪い女なら「ニタリと薄笑い」したまま実行しかねない。それが今起きつつあるのではあるまいかーーー、自分は騙されているのだという気がした。そう言えば口を利いたのは今日が初めてで、迂闊な事に相手の素性や気質をこっちは何も知らない。顔は綺麗だが、一皮剥けば最も邪悪な本性を隠しているに違いない。一度も顔に笑みを浮かべないのが、その証拠であった。


 世の中には悪魔の女というのが棲んでいる。氷みたいな冷たい息を、ひとふき吹きかけられたら最後、体が瞬時に凍り付き石にされてしまう。悲鳴を挙げる暇さえあるまい。導かれて深い山中に入り込んでしまい、今や自分の死活が女の手中にあるという現実に気付いて、思わずすくみ上った。後悔したが、もう遅かった。


つづく

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