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人生は短い、だから離婚しよう

 技術系の勉強をしているせいか、S子の物言いは割り算みたいにハキハキと角があるが、筆者は元来丸味より角が好きである。座った姿勢もピンと直角で短髪なのは筆者好みで、脱がせれば更に取り立てて見どころがありそうだ。年頃だから関心があるかと思って、摩擦係数の話の合間に結婚観について尋ねてみた処、こんな風に応えた:

 好きな人と結婚しても、好きだからといって自分が今まで積み上げてきた物を投げ捨ててまで付いて行きたいとは思わない。例えば夫がロンドンへ転勤になるとか、神戸から北九州へ転勤になっても、同行しないと思う。

★なるほどーーーー立派な考えではある。

 最愛の人の近くにいたいという理由だけでは付いて行きません、一人の異性にそんなにも尽くしたいという気持ちが(今の処)無いからです。

★なるほど、サバサバしていて摩擦係数と粘着係数は少なそうだ。

 逆の立場になっても、私の方に夫が付いてきて欲しいとは思わないわ。

★筆者は、段々火星人と話を交わしている気がして、はなはだ索漠たる気持ちになった。

 仮に一年以上会えない環境であっても、ネットで簡単にチャットは出来るんだし、容易く連絡の取れるようになった現代ではそんなに心の距離は遠くならない筈です。一生会えないという訳ではないのだから、それぞれ互いに違う地でやりたい事ややるべき事に励むべきだと思います。


★どうやら「ーーーべき事」が人生で優先なようだ。この女は、男というのが毎晩でもセックスしたがる低俗な生き物だと言うのを知らないらしい。二十一の若さだから無理も無いかーーー。異性とのさわやかな触れ合いに勝る喜びはない、と筆者なんか仕事を放り出しても最優先して思うのだが。

 まあしかし考えてみれば、恋愛というのは何処かいかがわしい処があるのは確かだ。

 もし、会えない間に夫(或いは恋人)が他の女性へ好意を抱き二人の関係に終止符が打たれることとなっても、仕方ない事で「縁がなかった」という事になると思うわ。

★「人生は短い、だから離婚しよう」と言うようなものだから、この女は結婚向きではないかも知れないーーー。容貌と性格と知能に問題が無いし、何時もはにかんでいるような表情は素敵だが、何かが抜けている。筆者はいいとしても、彼女と結婚する男たちが可愛そうだ。

  

 揺ぎ無く信じている風で、S子は「ねえ、そう思わない?」と目を上げて、こっちの返事を催促した。男として返事をし難い処だ。仕方なく、「立派な考えだと思うよ」と婉曲に表現したものの、少し無責任であったか。



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