どえらい目!
筆者自身の人生を総括してみれば、結局筆者はL子もノリちゃんも選択せず、七つ年下のY子を選んだ。先に触れたように筆者は結婚後やがて畑違いの銃砲の会社へ転職し、喫茶店の経営、その後酷い失業なども経験し、セールスマンへ落ちぶれたり、結果的に会社を起業するなど山あり谷ありだった。最後に辛うじて成功の端くれを掴んだ。平均的な人の会社員人生と比べたら五~六倍の長さを生きた気がする。苦労は多かったが成功の喜びも大きかったから、非常に起伏の大きな人生だった。
結婚と言うのは、異質な人間が結びつき双方の個性を尊重しながらも、共同して一つの人生を築き上げて行くような処がある。筆者の歩んだ人生の過程と結婚を重ね合わせてみると:
大学教授となるノリちゃんともし結婚していたとしたら、彼女は自分の研究者としての道を何より優先した筈だ。優れた才能があったから、その道は譲れなかったろう。途中で筆者が経営した喫茶店の女給となって店を手助けする事は考えられないし、又後年財務を担当して会社設立のために一翼を担う意志も無かったろう。筆者単独でパートナーの協力無しには、決して会社は成功しなかった。
ノリちゃんが独身を通したのは、その意味でノリちゃん自身の為にも筆者の為にも正解であった。
対して、もしL子と結婚していたとしたら、筆者の失業と起業という最も風雨の激しい過酷で困難な時代が二人の間に長く続いたから、個性が強すぎたL子と筆者は互いに激しい衝突と喧嘩を繰り広げた事だろう。夫婦の崩壊もあり得た。
平和な時代にあってこそとても魅力的なL子だったが、戦時下では協力を得るどころではなかったと思う。誰かがフリーテニスの時に言っていたように、「どえらい目!」に逢っていたに違いない。




