八卦見と虎が大嫌い
最後に筆者:先の会社に入社して日も浅い頃、まだ会社から輸出部への配属先を告げられる前でL子の存在を知る前だった。同期の連中七・八人と飲み会かなんかで食事が済んで大阪梅田界隈を夜の八時過ぎにブラブラ歩いていた。この時、道の片隅に五十過ぎのやつれて見えた男の易者(八卦見)が一人居た。面白がって数人が一緒に運勢を観て貰った。好奇心のあった筆者も中に混じった。
観て貰った数人は、ありきたりの事を言われた。最後の筆者の番になって易者は、手相を調べ顔の相をゆっくり眺めた。一呼吸置いて謎めいた言い方をした:「何処か分からないが貴方はここには居らず遠くへ行く。五十を過ぎた頃、草原を虎が歩く風になるでしょう」
草原を歩く虎とは思いも拠らない言い方だったから、同期の人達も不思議がった。筆者が尋ねると、易者は「五十になれば向かう処敵はなく、虎のように肩で風を切る風になる」と応えた。変に感じて、今も筆者は易者の言葉を覚えている。
今にして人生を振り返ってみれば、易者の予言は的中した:やがて筆者は会社を辞めてベルギーの世界的銃砲会社へ転職し、海外と取引する事になって頻繁に海外へ出張したから「(お前は)遠くへ行く」という予言は先ず当たった。次に五十過ぎといえば、苦労して起業した会社がようやく軌道に乗り始め、安定した成長を開始した時期とピタリ重なる。成功に自信があって正しく当時は順風満帆であった。
しょぼくれて見えたあの街の易者に、どうしてそんな遠い筆者の将来を正確に見通せたのだろう? 科学以外を信じない筆者だが、今でも不思議に思う。このエピソードを挟んだのは、易者の予言の中にL子の影が何処にも無かったからだ。そこまで的中させた名人の易者なら、一人の女の存在に必ず触れたろう。なぜなら筆者の成功に女の助力が必ず必要だったからだ。
影が現れなかったのは、メスのイグアナから進化したL子は八卦見と虎が嫌いだったに違いないと、このエッセイを書きながらふと思った。




