ケバいホテル街
卓球場は何故か歓楽街のど真ん中にあった。ピンポンの後、薄暗い帰り道はネオンでケバいホテルが林立するホテル街だった。両側にホテルの立つ道の真ん中を、シンとしながら二人とも正座して歩いたから、人から見ればさぞ滑稽だったろう。引っ張り込んでくれるような気の利いた人は、周りに居なかった。
並んで歩きながらこっちは内心ワクワクしたし妙にどぎまぎさせられた位だから、この時ばかりは、混沌としたL子の女ごころも嫌やが上にも複雑化した筈だ。無論、L子本人へ確かめた訳ではなかったが、少なくとも胸の内で筆者は首をひねっていた。
周りにひしめいていた男たちがL子に退治されながら、筆者一人が生き残っていたから、もっと積極的にアプローチしておれば、彼女をものに出来たろうかと後で密かに思った:「君って最高にすてきだ!」
いやいや、そんな事はあるまい。L子は比較的複雑な振る舞いをする女だ。人気の無い薄暗い夜道や、明るくてもケバいホテル街を歩く時は、用心の為に何時もカミソリを手に隠し持っていたと噂に聞いていた。
もし一歩踏み込んでいたら、頸動脈を切られて筆者は壊滅的な打撃を蒙っていたに違いにない。今とは違い、当時若い女の間では到る処でカミソリが流行していたし、対して浮気が到る処ではびこるような時代ではなかったのだ。




