フンッ、バカ!
L子は先のミス・ホリーに思考が似ていた。物語の中で女友達のミス・マグへ、ベッドでの男との愛の形についてホリーはこう言っている:
「貴方の振る舞いが確かにNormalかもしれないわ。でも、私の振る舞いがNatural(自然)よ」
家出をしたりせず万引きもやらないから、L子はミス・ホリーみたいな徹底した悪女では決してない。が、気の強さ・意地悪・負けず嫌い・相手を見下す態度・傍若無人な高笑いーーーを順次使いこなしたから、上役から下役まで本社ビル内でL子の存在を知らぬ者は無かった。
感情の起伏も激しく、激情を抑える為にハンカチを握りしめて黙って体をぶるぶる震わせている姿を、筆者は密かに目撃したことがある。むしろ神経質で細かい事によく気が付き、決して大雑把な性格ではなかったのである。
当然同性の同僚から多大な反感も買った。嫌う人は、L子が致命的な毒性を持つ悪女として嫌悪感をあらわにした。そんな女に対して機会を捕らえてL子は徹底してやり返したが、罵倒の要点はブレる事がなく、それだけに相手を一層悔しがらせた。「フンッ、バカ!死ね!」のL子のとどめのひと言で大概の女は泣いて退治されたから、以後どんな女も手出しをやめた。
無論、女の世界はそんな単純ではない:失った帝国を取り戻そうと、泣かされた側の女のグループは、虎視眈々と水面下で逆襲をねらっていたと聞く。




