ざまあ見やがれ!
L子は一つ年上の男性社員とペアで輸出業務をこなしていた。何故か彼女の方が背が高く、男は低く高松敬次郎と言う名であった。背丈の為に初めから男にハンデがあった。
L子は用があって取引先へ電話を掛ける時、大抵が乙仲(=輸出手続きを代行する専門業者)だったが、枕詞は決まってこうだった:「まあ、○○さんですか! 今日は良いお天気ですね」と社外の人へは愛想がよい。続けて「いつも敬次郎がお世話になっておりますーーー」とやるのだった。
目下に見れられたように感じて敬次郎君は何時も怒ったが、実際L子は勝手に下に見ていた。気位が高いくせに茶目っ気があったのは、女の頭の良さである。
昼休み時間の工場構内では車の運行は禁止で、建物前の広場はフリーテニス(=テニスと卓球の中間みたいなゲームで、ミニテニスとも呼ばれていた)が盛んだった。割に自由な雰囲気の会社だったから、工場労働者も輸出部のエリートたちも一緒になってこれに興じた。4人でプレーする。誘われて筆者も数度参加したことがあったが直ぐに敗退して、大抵近くに腰かけて見物する側だった。
L子は毎日の常連でボールのあしらいが上手く大概勝ち進んだ。これを阻むのが工場の小柄な若い作業員の小倉君であった。強い球を撃ち込まれて負けると、L子は顔を歪めて地団太を踏んだ。小倉君もそれを狙って仕掛けて、成功する度に輸出部のエリートへこれ見よがしに留飲を下げて見せた:「(女のくせに)ざまあ見やがれ!」
やり取りを見て、周りの見物人達はやんやと愉快がった。




