どこの青びょうたん
もう半世紀が経ち50年以上前の話になる。筆者が若い頃である:
輸出部社員の24になったL子は、英文タイプも出来たし頭が良く、仕事を電撃的な速さで片づけていた。エリート意識も高かったが、その分気も強く、彼女にひとにらみされると社内の年若い女の子は震え上がった。卵形の顔をし、まゆがやや上がり気味なのも好ましい印象を与える美人だった。いや、そういう女は美人に見えるものだ。
当時はまだ女性の地位が低く、結婚したら女は退職するものというのが、大手の会社では社内の暗黙の通念だった。仕事が出来ても男子を凌ぐ地位には就けなかったし、会社にも女性社員の待遇を改善しようなんてろくでもない考えを思いつきもしなかった。壁に飾られる花と同じで、しおれたりとうが立ったりすると入れ替えるのだった。
L子より二つ年長で同時に独身だった筆者も同じ職場に所属していたが、L子は筆者へ目もくれなかった。年頃の若い女なら異性に対して大なり小なりしなを作ったり媚びを見せたりするものだが、秋祭りの夜店じゃあるまいしという風に、L子はそんなものを安売りするタイプではなかった。筆者を「どこの青びょうたん」位にしか見ておらず、もっともその通りで、こっちは眼光人を射るとは行かず、風采も上がらなかったのである。




