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平和な様子

12.平和な様子


 自宅まで帰り着くだけが、今日の残りの仕事の積りだったのに、これから少し山登りをしようというのだーーー。まあ、いいっか、と軽く考えた。


 茶店まで大した道のりでないと判っていても、人が余り通らない山道である。人気ひとけの無い真っ暗な夜道なら、たった十米歩くだけでも気持ちが悪いもので、これと同じ。木々の繁った山中では大蛇もいる。潮見台にキツネ坂がある位だから、山に狼が出没しないとは言い切れまい。だからこそ、山へ登るときは何時も父親と一緒でこれは当たり前であった。


 けれども今から同道するのは、紙切れほども腕力の無い女の子一人。短い距離としても、深い山へ入るのに小さい子供二人だけで、本当に大丈夫か? それにしても、考えて見れば普段は通学路として彼女たった一人なのであるーーー。それが夜道にも等しい狼の出そうな山道を歩くなんて、夢にも見ないし聞いたことも無い話だ。私の頭は殆ど混乱しかけた。

  

 流石に本気かと怪しみ、十センチも上背のある女の顔をまじまじと眺めた。が、相手は何がまじまじなのかという風にきょとんとするばかりで、らちが開かない。そんな女の平和な様子を眺めて、事態は思ったより案外簡単なようだと判断した:どうせ、茶店は登り口から直ぐ近所なのだからーーー。

 こっちから言い出した「玄関先まで行く」の計画を、茶店だからといって今更中止には出来ない。武士に二言は無いし、小二と言えども好きな女の前で「男を下げる」訳に行かない。


 登山口から暫くの登りは、並んで歩ける程の道幅があった。直ぐにでも本道から横道があって茶店が現れるものと期待して、女を先に立てて注意しながら歩いた。湿っぽい土の匂いがし、林の中には木漏れ日があった。


 登りながら、茶店へ通じる横道は一向に現われる様子が無い。道はくねくねと折れ曲がっていたが、前も後ろも一本道だし、自分の記憶する限り茶店などある筈のない道である。確かに、何かヘンであった。気恥ずかしさの為か、女が無口でほとんどしゃべらないのも気に掛かった。


つづく

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