シビアーで利己的な計算
一方で目を転じて「従業員達ならば、どう考えるだろうか」と多角的に考えてみた。
外に言ってくれる人がないから仕方なく本人が言うのだが、筆者は案外従業員に持てている(と思っている)。正確に言えばこわもて。経営を任せておけば会社は安泰と考える一方で、何でも知っているから怖い存在でもあるようだ。三十数年の実績があるから、そうなるのだろうが。
本気かどうか「社長、絶対に百歳まで頑張ってくださいよ!」と言われた事が何度かある。これがお世辞でも無さそうに聞こえたが、だからと言って心にもない言葉なのは端から分かっている。筆者の個人的な健康と幸福を願っているのではなく、また、嬉しがった筆者から抱きしめられると彼らが期待しているわけでもない。
裏を返せば: 社長を今のまま(100まで)続けて欲しい→後継者に(未だ)譲らないで欲しい→譲る時期はせめて私(従業員)の定年退職後に実行して欲しい、というのを意味する。言い換えれば、後継者がえらく見くびられている事になるから、シビアーで利己的な計算をしているのだ。そんな事を思いたくはないが、もし買収相手が後継者を見た上での提案ならば、これはこれで問題だ。はたから思うより、経営の世界は厳しい。
配偶者と筆者は「一瞬にして大富豪になる」チャンスに巡り合いながら、惜しげも無くそれを見逃すことにした。M&Aの仲介会社には以下の趣旨を書いて、翌日断りの連絡を入れたのである。威張る風でもなく相手を咎める風でもなく、むしろ人のいい笑顔で応対した。




