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茶店

11.茶店


 私はその方面の道を全く知らない訳ではなかった。五百米程も進めば山があり、行き止まりになっている。その先は木が繁っているばかりで道路は無く、須磨アルプス連峰の一角である鉄拐山てっかいざんと言う深い山だ。


 行き止まりになった道路と山との間が谷で、十米ほどの橋が掛かっていて、渡り切ると登り口になっている。そこから、日曜日に父親に連れられて山の中腹にある休憩所まで、何度か登った経験があった。女が示したのは、その方向への道である。


 ただ、登り口に至るまでの間に、道に沿って民家らしいものが在った気がしない。やや不審に感じつつ、自分の記憶を探りながら一緒に歩いた。こっちの気持ちが通じたのか、女の子が了解を求めるかのように初めて明かした:「ウチは、茶店をしているーーー」


 これを言い難そうに歯切れが悪く、何か恥か秘密でもあるかのように、口ごもりながら言った。そう聞いても意味が呑み込めず、山への登り口の辺りに屋台みたいな店があって、山へ登る人相手に昼間ジュースなど売っているのだろうと、私は聞き流した。けれどもーーー、そんな売店があったような記憶が無いから、何かヘンであった。そう思考したのを、私は今でもありありと覚えている。

 女の子が「言い難そう」にしたのは恥ずかしかった為ではなく、実は私を「逃亡させたくない」という気持ちが女の子の何処かにあったからだ。これは、ずっと後年になって分かった。


 女の子はしばらく考え込んで黙っていた。が、一緒に更に歩く内に、「山の上で寝泊りしている」と聞いて、こっちは流石にびっくりした。登り口の屋台の腰掛どころではない。

 家の長である父親とは、毎日会社へ行くものと信じ込んでいた年頃であるから、女の子の言葉を私は珍しいもののように聴いた。茶店兼用の家がどの辺りにあるのか、さっぱり見当が付かない。自分の父親と登る道筋には、茶店らしいのを見掛けた覚えが無かったからだ。何処か途中で横へそれる道があって、そんな場所にあるのだろうか? そうに違いなかった。


「ふ~ん。茶店は、山の高い処にあるの?」

「たかいっ!」女の子が勢い良く応じた。

「それじゃ、てっぺん?」

「う~んーーー」と、唸った。

「どの辺?」と重ねると、「う~ん」と又唸った。

 受け答えが実に不審である。これでは一体何処にあるのか見当が付かない。


つづく


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