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時間を止める

 配偶者はこの話を筆者へしながら、「(泣いたのは)彼女が正直な人だからーーー」と言い訳するみたいにつぶやいた。彼女に会ったことはないので、どんな人か知らなかったが、筆者は黙っていた。泣いた彼女の気持ちが分かる気がしたからであるし、同時に彼女と同い年の(しかも、プラスして難病に苦しむ)配偶者の心の内も推し量ったからである。


 彼女と配偶者と筆者の三者には、話をしなくても共有しているものがある。三者とも老人である事だ。億万長者の彼女が一人泣いたのは、無論不幸を嘆いたのではない、人生そのものの悲しみの為である。老人には何をしても先が無いという虚しさがある。


 最初からグサリと来た話で恐縮だが、虚しさは老人を支配する特有の心理だと思う。恐らく例外の人は居ないのではないか。彼女のように虚しさを正直に一人泣くか、難病の配偶者のように心に隠して外面は笑って誤魔化すか、筆者のように現実から目を反らせて他の事(=多分、仕事)に気を紛らわせているかだけの違いで、基本は共通である。


 対策は二つしかない。一つは老年にならない事だが、今の処一粒のんだら治る防止薬は発明されていないし、発明される見込みも無さそうだ。 二つ目は時間を止める事だが、若い人には早く大きくなりたいと言う人も居て賛否両論があるために、止めるかどうか筆者単独では決められない。

 そんな訳で、老人は永久に楽天的な気持ちにはなれないのだ。


 老人は若い人に比べて一般に幸福度が高いと言われ、そんな調査データもあるようだ。一面確かにそうで、若い世代に比べての責任の減少・自由に使える時間の増加・ストレスの減少などの結果である。そうだとしても、それらは随分と表面的であると筆者は考えている。本当の奥底を探ると、先の幸福度の全部をひっくるめても、老人の「虚しさ」という悲しみには太刀打ちが出来ない。



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