巡る天体運動
9.巡る天体運動
帰る方向は同じだが、女の子の家は私の住む潮見台ではない。彼女は、鼻をややしゃくり上げて、追加して特別の友情を示した:
「私は、高倉町よ!」
高倉町がどの界隈か私の知識に無かったが、こっちは自分の家がクラス中で一番遠方に位置していると信じ切っていた。それだけの根拠で、女の子の家が距離的に自分の家より手前にあるもの、と解釈した。
憧れの女の子と一緒に歩くのは初めてだから、嬉しかった。何時かパンツも脱がせよう! 天にも月にも舞い上がる気持ちで、もし望まれれば直ぐに結婚してもよいと考えた。
とは言っても、やはり気恥ずかしい。私は女の子からわざと遠ざかるように体を引き離してみたり、時々触れるばかりに近寄ったりしながら、彼女の周りを歩いた。この動きは楕円に近かったから、誰かが見れば、恰も太陽の周りを巡る天体運動に見えた事だろう。
一緒に居れる時間を引き延ばす為に、普段よりずっとゆっくりした足取りで、私は坂道を登りたかった。本当を言えば後戻りして、坂道をもう一度初めから一緒にやり直したい。いやいや、スタートを学校の校門まで遡っても構わない。
ところが意地悪な事に、どうしてか女の子の歩みが、意外にさっさと速くなるのだ。何もそんなに急がなくてもーーー、と女の気の利かなさ恨めしく思った。このままだと、たちまち分かれ道に来てしまうじゃないか!そうなっては、お仕舞いだ。女の歩みを遅らせようと、わざとゆっくり歩けば、こっちを置いてけぼりにしそうにするから、なお更始末が悪い。大急ぎで対策を考えた:
女の子の言う高倉町なんて、どうせ大したことはあるまい。少々のことだから、今日は彼女の家の前まで、回り道して帰ってもよいじゃないか!と思いついた。そうすれば、道々長く一緒に居れる。それに、余り遠回りで無ければ、明日の朝も登校時に彼女の家に立ち寄っても良い訳だ。そうなると、更に発展的な関係を構築出来るーーー。ひょっとしたら、本当に結婚出来るかもしれない。小二の頃から私はアイデアマンなのである。
いよいよ潮見台方面と高倉町へ分かれる分岐点近くへ来た時、思い切って彼女の家の玄関先まで「寄り道する」アイデアを提案した。
つづく




