表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
815/1693

技術部長の嘆き是非も無し

 さて、FN銃で長く道草を食ったが、一体今を時めく話題は何だったけーーー? あにはからんや、接着剤の話だったから、思い出して欲しい:


 失職する数年前に話が遡るが、ある日モリコートという変わった名前の特殊グリース(油)が、ミロク製作所の組み立て現場へ初めて持ち込まれた。分量は数百グラムの小さなブリキ缶で一つ。先に紹介した通り、このグリースの見栄えは悪く粘り気があり、色は真っ黒だった。

 この愛想の無い油の登場は何気ない風だったが、効果は神様みたいに驚異的だった。


 高度でデリケートな仕事は何十年となく続いて来て、それが彼らの誇りだった。鉄砲の部品のすり合わせに汗を流していた組立職人らは、その日から仕事に「手を抜ける」ようになったのである。一滴塗布すればツルツルになったから、もうヤスリは要らない。銃工場で、伝統の技が廃れたのは時間を掛けて徐々に起きたのではなかった。たった一滴の特殊油の出現で、ある日あっという間に起きたのだ。


 新型の油で手を真っ黒にしながら、職人達は「オレの給料が下げられるかもしんねえな」と心配した。筆者と親しかった工場の年配の技術部長が、後日嘆いていた:「モリコートの為に、仕上げ職人の腕が落ちたーーー」と。


 科学の進化の怖さと言うか見事さというべきか、訳も無く感銘を受けたのを、技術部長の戸惑いの顔と一緒に、筆者は今も覚えている:「伝統と時代が変わるとは、こういう事かーーー」と思った。

 昔、誰も予測しなかった明智光秀の突然の謀反に接し、信長がいまわの時に呟いたそうである:「是非(=良い・悪い)も無しーーー」。モリコートの出現は、高知の片田舎で時代を変えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ