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亀が空を飛ぶ

 高知でのFN社勤務時代のまま人生が転がって行けば、給料も悪くなかったし、技術者として家族と地方にのんびり暮らす生涯も悪くは無かったと思う。


 そこでの失職さえ無かったとしたら、その後技術者にとっては異次元とも見えたセールスの世界に転落する事は起きなかった。「(ネジを締める)機械は要りませんか?」と連呼するセールスマンへと身を落とす(?)事も起きなかった。


 やがてその延長で販売会社を起業することも起きなかったし、発展して今のように発明や開発が仕事になる事もなかった。FN社以後は畑違いで、亀が空を飛んだような目の回る人生だったと、筆者は感じている。

 思えば、FN社に入る前は、大学の造船科を出て椿本チエーン(大阪)に入社し、工業用チエーンの輸出要員として専念していたのだから、全く人生なんて予測も付かないものだ。筆者が、平均的な人の五倍くらいの人生を生きて来た感じがするのはそんな変遷振りのせいだ。


 今になって、空飛ぶ亀が眺めている世界は、決して悪くはない。何故なら今の開発の仕事には、椿本チエイン時代(そこで学んだ語学の知識)・FN社時代(品質や製造知識)・セールスマン(人をたぶらかす術)の経験など、一つ一つの知識や経験が集大成となって生かされている気がするからだ。その意味では人生に無駄は無かったーーー、と思う。



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