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まあ、いいや

 Mr.ブローニングが発明したこの銃の技術を買い取った人は(最終的にFN社となるが)、内部の部品を芸術品と「そっくり同じ」に作らないといけなかった。


 なぜなら、それぞれの微妙な寸法や形は試作を重ねて得た経験値であったから、安く作ろうとして少しでも寸法を違うようにいじると、暴発のリスクを負わなければならないからだ。一度でも死亡事故を起こせば、銃を量産した会社は信頼を失って潰れなければならない。銃ビジネスの特殊性といえる。


 そっくり同じに作るとなると、大仕事だ。なぜなら元の部品は隅々まで手作りでヤスリ仕上げだったから、写真に写し取るように、微妙な形状や寸法やカーブや三次元曲面などと共に、微細な公差(=許される作り間違いの幅)を図面に落とし込まないといけない。

 公差も殆ど±0に近い。「芸術品の複製」を作るとは、そういう事を意味した。


 悩ましい事の一つは、発明者Mr.ブローニングが仕上げたAuto-5銃が本当に100%理想の形かどうかは、実は当の本人も含めて誰にも分らなかった事だ。ヤスリを使って工夫する内に結果として出来てしまったものだから。

 本当は製造コスト半減の為に、内部の部品ロッキングブロックの右下の5°のカーブを3°に変更しても機能に何ら差が無いかも知れないのに、そうしたいのに、これが可能かどうか誰にも分らなかった。先の通り簡単には行かないのだ。


 銃のあらゆる他の細かな部品にも同じことが云えた。

 ならばーーー、と考えたのだろう。面倒くさいから「まあ、いいや」という事で、結局写真で写し撮ったような元の複雑なままの図面で、そのまま以後も行こうとなったのだ。スポーツ銃(=言い換えれば、趣味の銃、ある程度価格が高くても構わない)という銃の性格も、改良を阻んだ。


 筆者に言わせれば、「不必要に・そして無駄に複雑化された」図面は伝統という言葉で神格化され、

100年前から例え0.3mmでも変更・改善される事がなかった。

 なに、びっくりする事ではない、伝統とか老舗というものは往々にしてそうなり勝ちなもの。


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