ヤスリの擦り合わせ技術
けれども神戸から赴任してやがて半年もして気づいた事だったが、先の「職人技への拘りと誇り」は一見立派に見えるが、言い換えるとこうなる:
構成する一つ一つの部品の精度の出来は「そこそこ不正確」であって構わない、何故なら精度の不充分さは俺たちの高度なヤスリの擦り合わせ技術で補って、最終は立派な銃に仕上げてやるからのだからーーーという考え方に他ならない。
一言で言うなら、部品の加工精度など細かい事をグチグチ言うな、極論すれば、どうでもいい。昼休みに機械を止めるなだって!? チャンチャラおかしい。チャンチャン!
対して筆者の属するFN社では、部品の加工精度と品質は示された図面通り「パーフェクト100%」正しく出来上げってなければならない。パーフェクトであるなら銃を組み立てる時に「すり合わせ」の仕事をやる必要(無駄)がないから、職人なんて一人も要らない。
部品間の「すり合わせ」をやるというのは、即ち部品自体が精度正しく仕上がっていない紛れもない証拠だ。ランチタイムに機械を止めないのは常識である、と言う世界であった。
筆者とミロク社間でぶつかる口論は正しく、二つの会社の180°正反対な「企業文化と伝統の違い」だったのだ。互いに容易に相容れられるものではなかった。
・ミロク社:部品の精度は荒っぽくてよい+高度な仕上げ職人が居るから
・FN社 :部品の精度が全てである+職人ゼロ(不要)
なお、当時は前者の方が、製造コストは「遥かに」安かったのである。我が国の人件費が低かったと言える。




