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素敵な練習台

3. 素敵な練習台


 話をマッサージ教室へ戻す:

 一回ニ時間半のお授業で、しばしばサービスで時間が延長となるのだが、一時間目は座学で骨格と筋肉のお勉強。講義を聴きながら教室の片隅に吊るされたガイコツをカタカタ言わせて、生徒が交代で撫ぜまわす。骨の位置を確かめて、骨まで愛する方法を会得するためだ。

 これを眺めて、美人も不美人も骨に張り付く皮一枚の差かと思うと、カタカタの響きも格別な味わいがある。標本が女の骨に相違ないとピンと来るのは、肉体の次に女の骨を私が好きだからである。


 次に続く一時間半が実技で、これが楽しみーーー。寝技ねわざとも言うが、中には(=多分私一人だけと思うが)ベットテクという人もいる。生徒同士が互いにマッサージの練習台になって練習する。練習台は堅い専用ベッドに、パンツと薄物一枚になって大型タオルにくるまってうつ伏せに寝る。殆ど裸体という訳だが、ただ惜しむらくは、被験者が背中だけというのが残念至極。


 私の練習の時は、何時も二十代の女が練習台になってくれる。タオルごしの背中とはいえ、毎週教室で痴漢ゴッコをやっているようなもの。一度味わったら、満員電車の狭い中でヤル男の気が知れない。だから最初に、授業料は「こりゃ、安い!」と言った。


 そんな風に、わくわくする練習であっても、私は歯医者みたいに、まるでわくわくしない仏頂面風を装って背中をマッサージする。超真面目な学究肌で、深遠にすら見える筈だ。なお、こっちは絶対に練習台に志願しない事にしている。骨張った七十の「干物」を揉んで、誰が楽しかろうよ。第一、揉む手に骨が刺さる! 


 練習中に時々故意か偶然か、あと一歩という処まで、掛けてあるタオルの裾がめくれる時がある。実に困った問題でーーー、私の清らかな心がシクシク傷む。

 或る日、やれ嬉しや、困った事にたまたま「勝手に」少しめくれた。おかしいなーーー、室内に扇風機も無いのに、風流な風でも吹いたろうか? 勝手にめくれた場合に限り、私は元通りに直さない事にしている。お陰で判ったのは、練習台は適度に肉付きがよくツヤもあり、何と言っても生きがいいのだ。


 めくれなかった部分を得意の想像力で補うと、めくれた部分と併せて全身像が生々しく浮かび上がる。必要な部分がちゃんと盛り上っているし、重要な部分は適切に身が引き締まっている。これはもう半端な風情ではないから、わくわくを通り越して脳震盪を起こしそうになる。しかも、小骨が少ないからマッサージの手に刺さらない。味も良さそうなので直ぐタオルを剥いて、醤油を掛けて食べてしまいたい位だ。私の先祖が、元々南方系の食人種だったせいでもある。

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