道草と発電所
4.道草と発電所
学校の近くに間口の狭い時計屋があった。通りに面したウィンドの中に、手の上に乗るくらいの小さな赤い「水飲み鳥」の玩具が、飾りに置いてあった。仕組みが不思議なので、今でも何処かで売られている筈だ。
くちばしの赤い鳥は、長い首を振り子のようにゆらゆらさせて、時々前に置かれたコップにくちばしを突っ込んで水を飲む。電気コードもバッテリーも、何の仕掛けも無い。大抵毎日立ち止まって、私は飽かずこれを眺めた。一回飲むと次に飲むまでに三分位掛ったから、ゆらゆらする動きを数回まで眺めていると、直ぐ三十分が過ぎる。これが、子供達の間で時代を問わず流行している、道草という遊び。
鳥が飲んでも、コップの水が一向に減らないのは不思議だった。内部の仕掛けは、級友の誰に聞いても判らない魔術だったから、発明した人は天才に違いない。後年五年生か六年生になった時だったが、アレの大型を作って何百台と数を並べて電気を起そうと考えた友達がいた。ここにも天才が居ると知って、感嘆した。
この玩具( おもちゃ)を眺めた小学生は、私以外にも多数居た筈で、小さな時計屋は子供達に世の仕組みの不思議さを教え、発電所建設の創造性を涵養していたのだ。後年私が大学で理系学部を選んだのも、ひょっとしたらこの「水飲み鳥」のせいかも知れない。時計屋を含めて地場産業の保護の面からも、小学生の道草を大人は決してこき下ろしてはいけない。
つづく




