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ベストセラー

5.ベストセラー

 その間にも、司法試験にパスした訳ではなかったが、裁判も幾つかやってみた。訴えたり訴えられたりで全て民事事件だったが、法廷で左(裁判官に向かって、原告の指定席)と右(被告席)を時々入れ替わった。 特許裁判も含めて指折り勘定してみると 合わせてラッキーセブンの7回だと思う。負けて800万円を取られた事もあるが、勝って1300万円をせしめた事もあるから、総括すると収支はトントン+アルファで、パチンコよりは分がいい。


 中には被告を舌鋒鋭く責め上げて、民事事件で相手を自殺に追い込んだケースもある。こっちが展開した証拠収集活動と追い詰める作戦は、複数の女も絡んでスパイ映画も顔負けで、作成した「準備書面」(=裁判の為の論争書類)と立証手法はスリラー小説さながらであった。書いた本人さえ胸がわくわくした。


 手に汗を握ってこれを読んだ配偶者は、「ヒーチャン(=恥ずかしながら、私の名)、出版社に持ち込んだらどう? ベストセラー間違い無しよ!」 

 人生が忙しく、三倍辺りを疾駆中だった私にはそんな暇が無い。読者はスリラー風ドキュメンタリーの告発状を読みたかも知れないが、遺族が未だ健在だから、それはまた別の機会に譲る事にしよう。


 それでも配偶者の言を真に受けて同じ事件を民事から刑事事件に切替えて、出版社ではなく神戸地検へ持ち込んだところ、一読した中年の検事が「こりゃあ、感動ものだ!」とうなった。 調査が完璧で被告に逃げ道を作らず、検事として新たにやるべき不足がないの意味であった。「刑事にならないか、ワシと組むなら特別に無試験で採用するがねえ」と、如何にも惜しそうにヘッドハントされた。が、人生の3.5倍の辺りを疾走中で忙しく、誘いを丁寧にお断りした。


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