金瓶梅
話を戻して: 私は英語と日本語しかしゃべれなかったが、先のベルギー人の上役にフランス語(=ベルギーはフランス語が国語)を喋れと言われた。直ぐに「イエッ、サー!」と応じて、一年後には手紙が書けるまでに上達したら、ゴリラがびっくりした。
そう書くとスゴイ!と思うかも知れないが、大した事ではない。欧州系の一つの言語(例えば英語)をちゃんとマスターしておれば、ルールの基本は共通していて似通った単語も多く、仏語などは案外易しい。欧州では数ヶ国語を操る人が少なくないが、隣国のTV番組をただで楽しむ為でもあるらしく、そう仰天する程の事ではない。
上役はそんな私を大層気に入ってくれて、気前よく破格に昇給してくれた。好きになったらとことん好きになるタイプの人だから、運が良かった。伝統的な日本人の律義さを愛したようだ。私がベルギーの本社へ出張の度に、彼は自宅へ招いて泊まらせた。
小学生の(幸いにして父親似でない)可愛い女の子が二人いて、何日も連泊させたから、お陰で外国の家庭生活や文化や生活態度が良く分かった。彼女たちは毎晩寝る前に私にキスを呉れた。
水準以上に美人の魅力的な奥さんだったが、愛読書を訊いたら金瓶梅(中国のエロ的四大奇書の一つ)のフランス語版だと応えたから、スケベエである。偶然とは言え趣味はこっちと完全に一致したが、ぐっと堪えて仲良くなるのは避けた。その頃は私も黒髪ふさふさで、中身は別にして見掛けが立派だったから、東洋人好みの奥さんが勝手にその気になりかけたのである。




