「さあ、と言え!」
3.2~3倍の辺り
5倍の中の2~3倍辺りと言えば、20代後半から30代半ば頃で、その頃に勤めた外資系の会社は、南国土佐の高知にあった。勤務していた大阪の会社を辞めて、(今の流行りみたいに)混雑した大都会から地方へ移り住んだのだった。神戸生まれの神戸育ちだが、空気の綺麗な処へ住みたいと思ったからで、何時も真っ黒になる鼻毛の掃除が嫌になっていた。
高知にベルギー外資の会社があって、そこへ転職した。高性能な機関銃を作っていて、戦争をする当事国の敵と味方の両方へ売って儲ける気の利いた会社で、別名死の商人。一般には名を知られていないから、ここに記載しても意味が無い。仮に銃を買いたいから紹介してくれと頼まれても気が重い。
いや気を揉まないで貰いたい、会社は機関銃以外にスポーツ銃も作っていて、日本国内では平和的な(?)ショットガン(=散弾銃)とライフル銃(=一発玉)の部品だけを下請けに作らせていた。そのスポーツ的な下請け工場の監督官の仕事に応募して、私が採用された。あら捜しが得意な人柄が決め手で、業務にうってつけと見込まれたのだ。
バイキングの末裔というデンマーク系ベルギー人の上司に仕えた。普段は日本に在住してないが、時々出張で日本の事務所へやってきた。アフリカのゴリラに似た風貌にアクの強い大男で、名をMr. Aと言ったが、ずば抜けて頭が良かった。彼は「さあ、と言え!」 と常々私に言ったものである。 こっちがきょとんとしていると、受けた命令の反復は必ず、「イエッ、サー!(=Yes, Sir!)」 でなければならなかった。ゴリラの血を引いた身分制度である。
因みに、知っている人は少ないと思うが、欧州(私のいう欧州とは、ドイツ・ベルギー・フランス辺りの積もりである)では、今でも階級意識が日本より強い。学歴やドクター(博士)やプロフェッサー(教授)の称号は値打ちがある。日本人の目から見ると、彼らはヘンにプライドが高く、奇異にさえ見える。逆説的に言えば、我が国ではドクターやプロフェッサーが当然の尊重を受けていない、と言えるのかも知れないのだが。




