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五倍

 「私の履歴書」欄を執筆してくれ、と日経が私に頼みに来る気遣いはないから安心だが、油断して仮に頼まれたとしても、紙面が足りるまい。紙面内に書けたとしても、全く前後の脈絡が無く、何かの練習の成果が結実したことが少ないから、因果応報の世間的なルールに沿っていない。だから一人分の履歴書を書いた積りが、違った数人分前に見えてしまって、きっと読者は混乱してブーイングするに違いない。


 私の人生は色々有った:


・一人の人間が造船工学を学び、分野の全く異なる工業用チエーンの製造会社へ入った。職場は大阪

 にあったからホコリで鼻毛が黒くなって、嫌になった。

・よって、生まれ故郷の神戸を離れて青空が青い高知へ移住し、デンマークのバイキングの末裔とい

 う大男の執事の職に就いた。仕事は鉄砲の検査だった。給料が良かったから、海岸べりに住んで毎

 日伊勢海老を食べた。高知で今も海洋資源の枯渇が問題となっているのはそのせいに違いない。


・会社が潰れて首になり、その後喫茶店を経営して一日5万円を稼いだ。この調子なら女を作れると

 思っていたら、一年後に目の前でビル工事が始まり店前の人通りがパーフェクトに「蒸発して」店

 はあえなくダウン。

・次に神戸へ舞い戻り一年半の失業で職探しに明け暮れて、ついに食い詰めた。


・工業用チエーンと鉄砲の堅い技術者が、全く畑違いのセールスマンになった。ねじを締める機械の

 販売。親は「そんな人をだます仕事はやめときなさい」と言ったが、外に仕事は無かったし、爆食

 いするスネかじりの幼児が複数いた。


・あにはからんや、騙し続けてダントツのトップセールスとなり、自信過剰となって会社の乗っ取り

 を計画した。あと一歩の処で、たくらみが露見して放り出された。当時の社長が憎々しげに薄ら笑

 いしながら投げた言葉が今も忘れられない:「悪は滅びるーーー」


・先を放り出された為だが、止む無く次に仕返しの為に会社を作って経営者となった。

・その途中ではあるが、ある事件を切っ掛けに神戸検察庁から「刑事にならないか」と誘われ、その

 間に一人の人間を自殺に追い込んだ。


・今や齢79となり、過去2年の間に将来ベストセラー製品と「なる筈」の5件の特許を取得する発

 明家となっている。会社の経営は片手間ではなく、開発を加えて左右片方づつ両手でやっている。

・勝手にエッセイストも名乗っている。


 先の経歴の特徴は、それぞれの職務に何の繋がりも無く、一貫性に欠ける事だ。でんでバラバラで、まるで違う複数の人間みたいだ。普通に企業で定年まで勤め上げた会社員と比べたら、人の5倍くらい生きて来た感じがしている。


 同じ年月に5倍を詰め込むには急がなければならなかったから、何時も駆け足していた気がする。セカセカと今でも歩くのが速いし、スピード感があるからアチコチをこすり回って手足に生傷が絶えない。3-4倍の辺りを疾駆していた頃に、「何故こう次々と休みも無く人生は有為転変し、目ぐるましいのか!」と、自分ながら怪しんだものだ。


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