◎第十五話: 「営業マン募集」の話
第十五話:「営業マン募集」の話
A地区で、ウチは現在営業マンを募集している。割りに沢山応募者が来る。面接は私が行うが、応募者には五十を越えた人もいる。
五十と言えば人生で長年揉まれて来たから、その分野で「出来上がった」筈の人という事になる。言葉を変えれば、ベテランの域に達している。こっちのそんな期待に違わず、応募者は自画自賛する: 「自分は、長年営業職に携わった超ベテランである。だから云々ーーー」と、なるほどーーーと思う。
営業職(=物を売る人)というのは、他の職種とは少し違った「特殊な職業」。机にしがみ付いて仕事をする設計マンや、現場で立ち働く技術職や監督とも違うし、当然事務職員や教師らとは、違う。一番大きな違いは、その人の力量が「売るか・売らないか」の二点だけに絞られ、「数字」で評価される。だから、誰の目にも出来・不出来が容易に正確に判別出来る。
けれども、面接の時点では皆目分からないーーー。が、果たして、本当に分からないだろうか?
今は差別も少なく分け隔ての無い世の中。昔と違って成功する為の手段も多いし、学歴も無関係。今ほど自由とチャンスに恵まれた時代は無い。言い換えれば、「出来のよい」営業マンなら、本人がその気になれば、幾らでも何でも(販売出来て)稼げる時代だ。起業も簡単、自分で宣言すればよいだけだ。
商品の利点を説明し、買うように説得するのは、商品の種類を問わず共通したものがある。一旦マスターすれば、こんな便利で融通の利く職は他に無く、お金持ちになれる一番の近道でもあるから、営業マンほど「素敵な商売!」は無い。
さて、面接をやるこっちは多少の営業経験があって、言ってみれば、その道のプロだから、先の事が良く分かる。だから、五十過ぎの営業職への応募者の顔を、しげしげと眺めて怪しむ事になる: どうして、今更安いはした金の給料で、誰かに雇われたいと考えるのか? その歳とベテランという経験があるなら、明日からすぐ稼げるのが、営業職じゃないか。どうしてウチみたいなケチな会社へ応募して来るんだーーー?
例えば彼は、面接官へこう言っても良かったのだ:「ここへ来る前に、御社の製品をネットで勉強して来ました。実に、素晴らしい製品です! 不採用で構わないから、ワシに個人的に売らせてくれんか? 営業費の負担は、折半でどうだい?」
こんな事を言われでもしたら、私は即決で応えるだろう:「まあ、そんな事を言わずに、ウチへ来てくれんか? 給料は弾むぜ! 営業費は全額会社持ちだ」
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五十を過ぎてからの営業職への応募自体が、既に矛盾している。「自分はよう売らないーーー」を、自白しているようなもの。採用される道理がない。営業職の場合、年齢の条件だけでハネられてしまうのは、この理由による。面接官に裏まで見抜かれるからだ。
そんな人に限って大概、本人に自覚が無くて、不採用の結果を受けて「俺は営業のベテランだのに、採用係は見る目が無いとか、年齢で差別するのは不公平だ」と、首をひねっているようだがーーー。採用する側も、先の理由を露骨に言えば失礼だから、相手には言わない。だから、はねられた本人には、不採用の理由が永久に判らない。
営業の世界では、物事が判っている人と全然判っていない人と、二種類が居る気がする。
完
比呂よし




