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余談のつづき(4)お仕舞い

 女の的を得た批評だけでなく、ハタと考え直し、これ以上の研究を中止する事にしました。次の理由に拠ります:

ウチは、会社として化学メーカーにはならないと決めた事。

仮にそのような新型緩み止め剤が安く出来たとしても、機械屋であるウチには販売ルートが無い。今からルートを作り上げるには、私は歳を取り過ぎている。

目下多忙であり過ぎるために、化学研究にこれ以上の人生を割く訳に行かない事。例えば、彼女とデートもしなくてはならないし、接着剤よりも人間の方が遥かに大切であります。これは冗談ではありません。

比率がポイントですが、彼女が言う通り基本的な原理は「原料の混ぜ合わせ」だけですから、特許にはなり得ないと思い、それでは(開発者にとって)面白みに少し欠ける事。


 そんな次第で中止を決めましたが、決して無駄にはなっていません。ウチの社内に限って大いに役に立つ事になりました。SAKI式テンションナットを覚えているでしょうか? 一番最初に開発した新製品で、これは徐々に販売を伸ばしており、国内だけでなく目下中国からも大きな引合いを得ております。  


 この製品は今も更なる改良の為に、様々に条件を変えて振動試験に励んでおります。問題がありましてね、とてもひどい(=想定を超えた)振動を受けるとヘルツねじ(=製品の写真にある10本の小ねじ)が緩むのです。これに悩んでおりました。想定外の外です。

 市販の潤滑剤や緩み止め剤で、あらゆるタイプを試しましたが、どれも効き目が不充分で、緩みを止められなかった。解決出来なかったのです。


 けれどもーーー、このヘルツねじに先の2液混合の「新型緩み止め剤」の試作品をたっぷり塗布すると(締め付けてから4時間置く必要がありますが)、あら不思議、90万回の振動でも尚まだ緩まない素晴らしい結果を得ました。本日の実験で得たホヤホヤの試験結果。今のところ世界中にコレ以外にありません。


 確かにラッキーで、これだけで会社は充分に研究の元を取りました。そんな訳で、他事ながらどうぞご休心下さい。中止してウチでは以後をやりませんが、もし読者の中で事業として後を継いで「新型緩み止め剤」を真剣にやりたい向きがあれば、連絡下さい。無償で協力をします。

 そんな次第で、このエッセイ(余談の話)もここまででお仕舞にしたい。研究開発の一旦でも味わって頂ければ、充分幸いです。


お仕舞い

2020.10.29




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