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早い者勝ち

 こうしてA社と堅い契りを交わしても、今はどうか知らないが、昔のローマ時代の女たちと同じように、浮気の蔓延を食い止める事は出来ない。次にB社へ行ってこうかき口説く:


「A社さんでは、私の提案を受けて採用する事になりました。有難い事で、実に賢明なご判断でした。まもなく生産が始まると思いますよ」

「うむーーー?」

「A社のボルトはビクとも連れ回りを起こさない。対して貴社のボルトは盛大に連れ回りを起こすーーーとなりゃ、ちょっと困るんじゃないですか? ボルトを買う側から見たら、どっちにしようか大いに悩むでしょう」

「ふむーーー、そうなるかな?」

「だってね、ボルトの値段が殆ど同じとくりゃーーー。 ねえ、ご判断は急がれた方がいいですよ」


 次に大手C社を訪問する。

「A社もB社も採用する事になりました。名誉ある老舗の貴社が取り残されていいんですか? マーケットシャア争いの結果は、えらい事になりますぜ。他社さんはこの機能をボルトに組み込んでも、値段は変えないと言ってますよ」

「そうかーーー」

「いや、値上げしても多分5%以内でしょう」


 次にD社を訪問する。

「地理的に遠かったので訪問が最後になりましたが、採用をためらっているのは業界で貴社だけです。このワシャを他社さんへ紹介して、まだそれほど日は経っておりません。急げばまだ間に合います、急いで決めて下さい。早い者勝です!」


 こうして目ぼしいA~D社からライセンス料を頂く。毎年頂戴するから、ちょっとした資金になる。さて、これで何をしようかーーー?


(明日へ続く)

余談の続き:

接着剤のネジロックについて、液体→固化するときにもし膨張するなら、ねじが緩まない現象を説明するのはとても楽だ。なぜなら、太ったら手持ちのスカートが履けなるのと同じで、ボルトが太るから「一層強く」締まる事になるからです。一層強く締まるなら、当然緩まない。けれども、私のそんな便利な仮説(=膨張する)は完全に否定されたから、膨張しなくても緩まないための別の「考え方」が必要となった。さてーーー。


難問を考えてーーー、次に思いついた仮説はこうです:

①締め付ける時、ボルト・ナットの間には、僅かといえども隙間がある。隙間が全くないならば、ボルトはナットに差し込めないから。


②ナットを強く「締め付ける」と、ボルトは強く引っ張られる。強く引っ張られるとボルトのおねじ(ギザギザ)の谷部分は、僅かに広がるだろう。この広がった空間へ液体状の接着剤ネジロックがしみ込んで「満たす」。

③時間が経てば、液体はそのまま(体積が変化せずに)固化する。


④ここが大事だが、ねじを緩めようとすると、広がっていたおねじの谷部は「縮まろうと動く」事になる。しかし谷は固化したプラスチックに隙間なくびっしり満たされているから、それに邪魔されて縮まれない。すなわちねじは緩められない。緩まない。


この新しい仮説を、私は正しいものと信じました。





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