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メンツ丸潰れ

 「SAKIワシャ」が、途方もなく大きな「組織と因襲とメンツ」に相い対峙しているのに気づいた。何故なら、先に示された厳しい締付け基準は日本の建築技術を支え、建築学会・土木工事協会・専門の学者達・有力ボルトメーカー・国土建設省らが一丸となって研究し、何年も掛かって策定したものに違いないからだ。そんな苦労は、こっちにも推測が付く。


 そんな幾重にも重なった厳重な規定を少し変更しようとするだけで、例え改善策であっても、A4で厚さ10センチの申請書を提出して、学者の意見を訊ね歩き委員会を開き、ハンコを持ちまわって、認可を得るのに一年以上掛かるーーー。そう聞いた覚えがあるから、確かな話なのである。


 ウチの会社は神戸の岩岡村にある。神戸というだけで東京にある委員会からは地の果てである。ある日そんな田舎の工場からポッと出て来た新参の「SAKIワシャ一」。名称だけでも生意気なのに、それ一つで神様みたいに重大な建築業界の基準や規定が180°ひっくり返されようとする。

 岩岡村の社長は口が悪い:「そんな規定やルールは時代遅れでもう意味が無い、古びた民法と同じだ・バカタレ・死ね!」などと言われたら、喧々諤々委員会のメンバーらは逆上するだろう。


 何せ裏面を凹ませただけなんだからーーー、配偶者もけなしたくらいで、委員たちは開いた口が塞がらない。長年かかって夜も寝ずに先の難しい規定を作って来た人間たちは、「オレたちの人生は一体何だったんだ。ワシャの凹みにさえ足りなかったのか!?」と嘆く。真面目だったから、余計に気の毒な事だ。

 人を化かすキツネが生息する岩岡村出身の新技術に対して、既存のエリート達のメンツは丸つぶれである。古い因習とプライドに固執して、技術の導入に断固反対するに違いない。特許潰しさえ画策するかもしれない。


 自分が、我が国の建設業界の技術の中枢部へいきなり挑戦状を突き付けた事になるーーー、と初めて気づいた。


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