チンパンジー
実際今までに幾人かの人へ、サンプルで実演して見せたのだが、驚かない人は居なかった。けれども、形状の単純さ(凹みだけ)と(連れ回りしない)即効的な効果のアンバランスを目の当たりにして、例外なく「これって、冗談でしょ、手品かペテンじゃないないのーーー?」という顔をするのだ。
人とは不思議なもので、奇妙な考え違いをする:本当はナットを回したらボルト頭は連れ回りするものなのに、正反対なことを考え始めるのだ。暫く手でサンプルをいじくり回している内に、ボルト頭が「連れ回りしない」のは、江戸時代の昔から当たり前の現象じゃないかと怪しみ始めるのだ。ついには、サンプルには何処も「不思議は無い・発明も無い」と感じ始める。そして、これはバカなサンプルだと思うに至る。
喜びの最たるものが食べ物とセックスだった昔、物々交換が当たり前であった。その時代に初めて「お金」というものが登場した時と今回の連れ回り防止ワシャの登場は、同じ立場なのだ。「お金」は人類史上画期的な大発明だったが、それが直ちに当たり前となって今や誰も尊敬しない。しかし、両方とも偉大な発明なのは紛れもない。例えば、最も賢いチンパンジーだって、未だお金を発明していないじゃないか!
バカだと思っても、老人に対して礼儀を示すべきと思うせいか、ワシャを眺めて「凄いねえ!」と一応褒めてくれる。が、顔は怪訝な様子でいささかの感嘆の色も無い。反対に目が笑っているから、それが何よりの証拠で、こっちを全然信用していないのだ:「こいつ、頭が少しおかしいのじゃねえのか!」
恐らく、連れ回りしないボルトなんて「作れない」という強い先入観もあるからだろう。何故ならボルト・ナットはJIS(或いは国際基準)で規格が厳重に決まっているから、(連れ回り防止目的で)ボルト頭の形状の改造なんてとんでもない事で、不可能だ。仮に規格外を作っても売れはしないから、考える余地が無いと思うのだろう。




