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素敵な男性

 意外な事に、そこには一部の社員達から毛嫌いされるような面は、何処にも見当たらない。一生懸命さと、正直な人間らしい感謝の気持ちがあるだけだ。社内で嫌われる女の性格は裏を返せば、「一所懸命過ぎる」事の現れなのだ。一所懸命になれるのは一種の才能だと筆者は思う。


 よく「ベストを尽くせとか、死に物狂いでやれ!」と人は気軽に言う。けれども本当に死に物狂いでやって死んだ人がいるのか? ベストを尽くせる人が何人いるだろうか。女はそれが出来る一人なのだ。


 15時頃に事務所で時間つぶししていた営業マンMに女が嫌味を言ったのも、女にすれば「自分はこんなに死に物狂いの気持ちでやっているにーーー、だのに、お前さんはどうしてそうのんびり遊んでいられるのかーーー、犯罪ではないか!」と心底腹が立ったのだろうか。正義感にも似て、思わず女の口をついて出たのだろう。


 一生懸命になれるのが才能だとしても、口で言うほど易しくはない。顧客がやっている仕事や問題点にまで深く入り込んでいたから、図面のトレースの経験を生かして、自宅で夜遅くまで顧客の為に作図したり検討していたのを、筆者は良く知っている。手を抜かないのだ。何もそこまでやらなくてもーーー、と何度か筆者は女へ言ったりもした。女は苦笑いを返すだけだった。


 そんな女を見てバカだと笑う人も居たが、筆者はそこに女の「正直さ」を見る思いがした。損得なく、顧客が困っているなら助けて上げようと思っただけなのだ。次々人や部署を紹介して貰えるのは、頼りなかったばかりではあるまい。女の人柄であったし、同時にギブ&テークの営業的なセンスが働いていたと思うし、さらに人に訴える一生懸命さが相手に伝わったのだ。


 自分にエールを送ってくれたお客こそ、彼女にはとても「素敵な男性」に見えたに違いない。数は限られ、決して多くは無かった筈だ。女を通して男の別の面が見える気がした。心の広い少数の男たちへ(彼女に成り代わって)筆者は感謝した。


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