専用の机を用意する
11.専用の机を用意する
Y製品について女はある時、大手企業K社の神戸工場から、大きな受注に成功した。一件でそんな大型受注は会社始まって以来だった。
「社長、私とデートしましょう」と言って誘ったから、筆者はそこの担当部へ女と一緒に受注のお礼に伺ったことがある。
お礼の挨拶が済み、事の序でに工場構内の他の部署へも女と一緒に挨拶に回った。それぞれの部署で「ウチの(キツネ目)が、毎度お世話になっております」と筆者は型どおり感謝を述べた。正しく型どおりの儀礼である。が、そうする内に、おかしな事に気づいた。回る先々どの部署の人も、判で押したように同じような返事を返したからである:
「いやいや、助けて貰って世話になっているのは、こちらの方ですよ。有り難い事です」
丁寧な挨拶を返されて、初めの内は外交辞令だと思った:物言いも丁寧でK社の社員の皆さんはやっぱり紳士達なんだなーーー、流石に一流大企業だけの事はあると。が、やがて、どうやらそうでもないと気づいた。中には、本気かどうかこう言う人さえ現れたからだ:
「ここに専用の机をウチで用意するから、彼女をここへ毎日常駐させてくれませんか?」
えっ、本気かい? 彼女と一緒に仕事をしたいと言うのだ。 何かい、放って置いたら、ついには結婚したいと言い出すのかも知れないと思った。これは型どおりの挨拶どころではない。
スタッフも係長も課長でさえ、まるで仏様を拝むみたいに外の言葉を知らない。ウチの社内で不潔なバクテリアの如く嫌われる女が、大手K社内で「女神のように」あがめられている! そこまで感謝されるような、一体何をキツネ目は普段やっているのか? 彼らはまるでK社全工場が、女一人の細腕で支えられているみたいな口ぶりである。
訳が判らず、判らないなりに女の営業手腕に筆者は舌を巻いたが、何となくぼんやりと感じた:あの女は損得で仕事をしていないーーー、その人たち(顧客)を好きでやっているのだ。仕事を愛しているのだな。間に介在しているのは母性本能なのだろうか。K社の人たちは、お母ちゃんと思っているのかもしれない。どんなに頑張っても、男の営業マンは適わないーーー。




