寝ないか?
6.寝ないか?
そんな事がありながらやがて10ケ月程経つと、女の売り上げは徐々に伸び始めた。伸びたら伸びたで、周りの好意的でない目は妬みも混じえて、「女のくせに」とか「色気で商売する」とか、「バレンタインチョコを使って売る」などの陰口が付いて回った。ウチのような(男向きの)職場では、女というだけでハンデがある。露骨には見せないが、本当は女より男の方が根はいやらしく嫉妬深いのである。
ハンデを克服する為に、「作り笑い」や「色気」や「チョコ」の小道具が役立つなら、女がそれを利用して何のバチが当たろうや? 私は内心で女を励ました: 「女の武器だろうが何だろうが、利用出来るものは精々利用すればよいじゃないか、何なら、口からウンコをして見せてやるぜ。『建前と常識』でメシが食えるかい!」
少なくとも私は、そう考えるタイプである。自分も過去に似た気持ちを経験していた。
逞しいいち面もあった。 ある時「キツネ目の女」が社内で、同性の誼で自分より若い女事務員と談笑しながら無遠慮な声を出していた:
「M重工の工場の現場に、ガラの悪い中年の班長がおってねえーーー」
「ふ~んーーー、大変ね」と、事務員。
「その二百五十万円の油圧レンチとやらを注文してやるから一晩寝ないか、と言うのよ」
「へえ、失礼よねえ!」と、若い事務員が顔をしかめた。
この会話を離れた処で耳に挟んだ筆者は、ヒヤリとした。案の定、直ぐに「キツネ目」の容赦の無い声が響いた:
「(寝るのは)『構わないけどさ、アンタじゃ、役不足だよ。 出世してから出直しておいで』と言い返してやったら、あのオッサン、赤い顔をしよったわ!」
「ーーーー?」
「だって、出世するような出来の好い男なら、言われなくったって、こっちから寝たいよねえ!」
事務員は、開いた口が塞がらなかった。そんな事を言いながら、キツネ女の表情はそれほど憂鬱そうではなかった。
命中しない手裏剣の失敗で懲りていた筆者は、オッサンに同情した。子をもうけて自分の遺伝子を伝える作戦だったようだが、やり込められたショックで急性インポ(ED)になったかどうか、勇ましい女の前で木っ端微塵である。セクハラ・パワハラと騒ぎ立てる昨今のやわい女とは、度胸も器の大きさも違った。




