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マタグラ

5.マタグラ


 けれども、崖をよじ登ろうとする女を、親切に理解する者は居なかった。むしろ足を引張る者は、女の家庭内にも居た。元溶接工の夫は、ガラが悪いようだった。仕事で女の帰宅が遅くなるのが何日か続いた時、自分の晩飯の支度が遅くなるのにイラついて、暗い中を疲れて帰って来た女へ口汚く浴びせた:

「今何時だと思ってるんだ? ええ、何かい! テメエはマタグラを使って、その会社で物を売ってんのかよ!」

 外資系の会社で生き生きと働く女の姿に、仕事の無い夫は嫉妬したのである。


 社内で嫌われ家庭内で理解されない女の救いの無さに、流石に筆者は同情した。周りから誤解を受け易い女は一度だけ悄然とした顔を作って、「辞めたいーー」と申し出た事がある。販売成績は未だ一人前と評価出来る状況ではなかったが、筆者は女を励ました: 

「君を見ていると腹が立つから、手裏剣をもう一度投げ付けたい気分なんだがね。それでもーーー、私は君の味方だよ」 

 女を辞めさせなかった。

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