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手裏剣、死ね!

3.手裏剣


 会社にとって不幸な事に、女は無事入社した:

 女と名が付けば筆者は大抵の種類が好みだが、この「キツネ目の女」だけは数少ない例外の一つである。入社を許したものの、目の仕組みが気に入らないだけでなく、外にも何処と無く虫が好かない。


 筆者の予感は的中し、入社した途端から女は直ぐに全社員の鼻つまみとなった。性格がきつくズケズケ物を言い、万事に露骨で角があった。 半年も経たない内に、他の社員達から敵意を持って眺められた。「何故あんなのを入れたのか」と筆者は暗に責められ、「傍に居られるだけで、ムカツク」と、陰で言う男子社員もいた。


 けれども「キツネ目の女」には、案外抵抗力というか免疫みたいなのがあって、社内の四面楚歌を気にしている風には見えない。それまでの人生でそんな目に遭うのに慣れて来た風で、不感症なのも知れなかった。他の社員から余りに嫌われるので流石に少し可哀想に思い、それとなく陰で女を庇うのは、筆者一人であった。これに気付いて、ヘンに勘ぐる社員もいた:

「社長は狐に化かされている。蓼食う虫も好きずきと言うから、何かーーーあのギツネと、ひょっとしたら怪しいのでは?」 


 が、その疑いは直ぐに晴れた。 何故なら、庇ってくれる恩人に対しても、女は些かの手加減もしなかったからだ。恩を恩とも感じない、輪を掛けて嫌な性格なのだ。他の社員達の居る前で、意見の食い違いで私と大喧嘩をした事がある。女は目を三角にして、筆者に食ってかかった:

「アンタは、鬼か蛇か!」 

 これは社員が上司に使う言葉ではない、毒ヘビと鬼が使う言葉だ。


 カチンと頭に来たこっちも負けてはおらず、しかし売り言葉に買い言葉で「何を小癪なっ!」と殴りつける訳には行かない。代わりに手元のA4古紙をクシャクシャと丸めるや、急ごしらえの手裏剣にしてバシッと投げ付けた。目もくらむような速球で、「死ね!」 こんなキツネ女には、体罰と刑務所こそ必要である。

 が、忍者の如く鼻先でひょいとかわして、燃えるような目で逆に睨み付けた:

「そんなヘロヘロ、当たるかい!」

「ヘロヘロだと!?」 フニャチンを指摘された気がした。


 ハラハラしながら一部始終を見ていた周りの社員らが、後で陰で言い合った:

「あの鬼社長の前で、他人ひと事ながら、ワシら凍りついたで。あの女、ただでは済むまいーーー」


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