死刑判決
2.死刑判決
とは言え、持参した女の経歴書を改めて眺めると:「高卒」→「和菓子屋の店員」→「設計事務所でトレース(=図面の書き写し)の仕事」→結婚して「専業主婦」→(子育て・夫が失業)→「スーパーでレジ打ちのパート職五年」。
内心で思った:冗談じゃないぜ、こんなゴミみたいな経歴。一体何の値打ちがあろうや! 仮に男だとしても、何をか言わんやだ。こっちは外資系のバリバリのエンジニアリング商社。息さえしておれば誰だって出来る仕事ってもんじゃねえんだ。平均以上の知能だって要る。面接官をナメとんのか? 血迷うて逆立ちすることはあっても、ウチへだけは来るな!
こっちの腹は面接する前から決まっていた。断固、死刑判決である。
夫は加古川市にある小さな鉄工所で腕ききの溶接工だったが、失職中との事。そんな同情話は聞き飽きたが、女は訴えた:
「私を雇ってください!」
「うむーーー」と、こっちはビクともしない。
「この会社は私を雇うべきです!」
「雇うべきだってーーー? どうして?」
「スーパーのレジ打ちの仕事ならありますが、月7~8万円にしかなりません」
そんなん、こっちが知った事か、お前さんに相応しい仕事だろうが。内心でそう思った。
「二人の娘が高一と中二で、私は経済的に困っています。月30万円は要ります。頑張りますから、雇って下さい」と、自分本位な理由を一方的に挙げて大いに粘った。
女の切羽詰った様子は、昔の苦しかった自分の失業時代を思い起こさせた。それだけに心情として助けてはやりたいが、彼女には到底無理な仕事なのだ。穏やかに断る為の言葉を探しつつ、伏し目がちな女の様子を眺めた。断りの第一声を発しかけた時、そんなこっちの気を察知したか、顔を上げた女のキツネ目が一瞬ギラリと光った。。
気押されて、ハッとなった。この目は昔何処かで見た気がした。
そうだーーー、人殺しの目だ。三十数年前、四十を超えた筆者はあらゆる応募先から断られていた。家には幼い子供たちもいた。長い失業で追い詰められていた筆者自身の目がそこにあったーーー。発しかけた言葉を反射的に呑みこんで、女へ即答した:
「よし、採用しよう。明日から来たまえ!」




