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◎第七十四話:「キツネ目の女」の話

次の話は以前に投稿したものですが、さらに加筆して充実しました。新たな資料が出てきたのでそれを反映させたものです。


◎第七十四話:「キツネ目の女」の話 


 もう十年以上前の話になるが、「営業マン急募!」に呼応して女が応募して来た。ウチのような小さな会社では応募者が大量にある訳ではないから、余程の事情がなければ応募者の全員を差別なく面接する事にしている。

 面接に現れたのは、四十半ば過ぎで短髪の中肉中背の体は頑丈そうだが、目つきが狐みたいな女。短髪は好きだが、筆者は狸と狐が嫌い。


 ウチはエンジニアリング商社で、大きなサイズのボルトの締め付けについて顧客へ技術アドバイスをしながら、締結工具を販売している。北海道から九州まで営業拠点を置いて23名の会社。締結工具といっても、油圧レンチ・電動ナットランナー・ボルトテンショナーなど種類は幾つかあり、それぞれが数百万円して、全てがドイツからの輸入製品。


 締結工具(小型の機械とも言えるが)の宣伝用サンプル品は、総重量が20数キロ。小分けにして持てるが、これを担いで工場へ出かけて、実演するのが営業活動なのだから、肉体労働真っ盛りの仕事。それなりに力も体力も要る。プラスして、油圧レンチというだけあって油汚れもする。


 長さ1m程の大ハンマーを、勇ましく振り上げて大型のボルトを叩き締めしている喧噪な工場の現場へ出掛けて行く。そんな男たちの間に割って入って実演(=デモンストレーション)するから、もし女の口上ならこんな具合になろうか:

「バカねえ、アンタたち。こっちの方が、ハンマーを振り回すより安全で楽よ!」と、一つのサンプルでも7~8キロはあるから楽でも無いのに、楽な振りをして振って見せる演技力だって要る。


 服装は上下つなぎの作業服でヘルメットを被り、重苦しい安全靴を履き、安全帯を身につけーーー、となる。スカートのひらひらは無縁の世界で、夏は汗びっしょりになるし、ヘルメット内の髪は汗にむれてペッタンコ。口紅だって流れ落ちて血をすすったようになる。


 こうして実に「野蛮で・男らしい」仕事なだけに、勝手に女人禁制みたいな職業。証拠に同業他社を含めて女の営業マンは一人も存在しない。女には無理だと筆者は考えていた。面接の場でこれを念入りに女へ語って聞かせた。折角応募したのにガッカリするだろうと思ったが、仕方のない事だ。現実は甘くないと教えてやるのは、こっちの親切である。


 が、あにはからんや甘かったのはこっち。「キツネ目の女」はビクともするどころか、これを最も「女向きの仕事」と考えたから世は様々である。

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