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天国のありか

3.天国のありか


 ベンチャー企業(最近ではスタートアップ企業と言うそうだが)が、創立後20年存続出来るのは0.3%だと聞く。殆ど全てが消滅するから、いわば、ベンチャー企業とは「成功しない」ことの代名詞みたいなものだ。理由も分かっている。最大の原因は「売り上げ不振」。

 稼ぎに追いつく貧乏無しというが、経営が下手でも少々無駄遣いしても、売り上げが順調であれば会社は潰れる事はないものだ。


 存続のポイントが売り上げと分かれば、話をウチの場合に戻そう:

 先に述べた通り昔のように、一ケ月5件の受注なら、仮に2件落としたら(=ライバルに取られた、或いは予算不足で客が買うのを中止した:これらは日常茶飯事でよくある話)、売り上げが4割も減少するのを意味する。存続が遠のくから経営者は真っ蒼。


 5件で1000万円の売り上げを想定していたのだから、それに相当する金額の仕入れを済ませている。4割も減少すれば、減少した分の(注文済の)仕入れ代金をどうやって工面するかーーー、支払いは1ケ月後に迫っている。支払えなければ、倒産で会社の存続は叶わない。


 営業マンの尻を叩きまくらなければならない。「石は何ぼ磨いてもダイヤにはなれへん」と喚いて、売り上げ成績の悪いのは即刻首で、次々に入れ替えたから、社員の名前を覚えるのに苦労した。20年を待たずして会社が生きるか死ぬかの瀬戸際だから、これを積極的にやった。

 その頃、これは前例のない現象ではなく、お祭りのように年中行事となっていた。様子を眺めて、「実に決断力の有り過ぎる」経営者だと銀行筋が褒めた。名経営者が誕生したのは、この時以来である。


 受注をたった2件落としただけなのに、社内に大嵐が吹き荒れた。戦々恐々の社員たちは経営者がゆっくりした足取りで近づいて来ると凍り付いて、何を言われるか歩み去るまで決して油断する事は無かった。突然不安に襲われたとみるや、やにわに用事ありげに部屋から出て行って接触を避けた。悪夢の時代である。


 対して、あにはからんやーーー、今の時代になった。昔と違って毎月の販売先が50件やそこらだから、3件や5件など落としても物の数に入らない。一件の金額も小さいから数を頼んで全体の販売は安定を得てビクともしない。好戦的な経営者の心は和らぎ、社員達は尻が腫れ上がるほど叩かれなくなり、天国のありかは社内であって、死後の世界ではなくなった。社員たちの定着率は会社が困るほど向上し、名前を覚えるのも楽になった。



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