何故なんだ、え!?
8.あとがき
先に書いた通り、ボルト締結でトルク締め(=ナットを回して締める事)をすると、ねじ面や床面の摩擦で約90%のエネルギーが蒸発してしまう。締付けにはたった10%しか役に立っていない。そう言うと如何にも摩擦こそが「悪の権化」のように見える。
けれども、もし仮に世の中から摩擦が完全に無くなってしまったとしたらーーー、ナットをいくら強く締め込んでも、手を放すやスルスルと緩んでしまうことになる。ボルト締めは不可能だ。とても嫌だけど必ず必要なものが摩擦の存在ーーー、と矛盾に満ちた現象なのである。
今回の「非回転ワシャ」の開発や実験では、初めから終わりまで文字通り摩擦との熾烈な戦いだった。思い悩んでついに金属の表面に何種類かの砂をまぶしてみたりした。坂道で鉄道の車輪が空回りする時に「砂を撒く」話を思い出したからだ。期待に応えて見事に効果的なマサツ力が発生した。
けれどもーーー効果は抜群だったが、この手段はタブーだと気付いて途中で中止したが、実験室が砂だらけになって後の清掃に難儀をした。実験値に異常が出る度に「拭き残りの砂のせいではないか」と、何日も疑心暗鬼に悩まされたものである。
そんな掴みどころのない摩擦の挙動を、今回は一部を上手く手なずけるのに成功し、(回り止めの為の)ギザなどを余分に付けなくてもワシャの裏面がつるつるでも(実験では、機械油や普通のグリース程度が付着していても)、ワシャは非回転の機能を保つようになった。
表面がつるつるだのに滑らないなんてーーー、確かにその辺りは「人の感覚」に反して随分ヘンに感じる。開発した本人さえ、「不思議だーーー」と感じる。錯覚なのだ。だからこそ、他の人が思いつかなかったのだろうかと思う。
白い雲を抜けて空高く泳ぐ超重量300トンの飛行機を眺め上げて、巨大な重量がいささかも落下しないのを、誰しも不思議がる。これが人の素直な感覚だろう。今回の開発品は、何処か似ている。
(最新型の)非回転ワシャの裏面の凹みの段差は、とても小さくした。わずか0.34mmと極微で見分けが付かず、表面にギザもない。わざとそうしたのだ。サンプルを見て触った人が大抵不思議がる:なぜ「非回転」なんだろう。一体なぜなんだ、え!? そしてしわの多い筆者の顔をまじまじと眺めて、一層不審を深めて警戒をする。筆者はそういういたずらが好きだ。
*お仕舞い*




