おねじとめねじ
さて次に、専門家の間でよく知られたもう一つの、公式ではないが知識がある。これは先の公式を数学的に導く過程で自然に分かる事なのだが、数式の使用は最小限に留めたいので、「物理知識」という言い方で説明する。それは:
◎ナットでボルトを締め付けた場合、締め付けたトルク(エネルギー)の内で:
・約50%はナットと床面間の摩擦に無駄に消費されてしまい、
・約40%がナットのめねじとボルトのおねじ部の摩擦に消費される※。
・そして残り約10%が、実際の締め付け(専門用語で軸力という:床面を押し付ける力)に関与する、
とされている。
回りくどい言い方だが、要するにナットを回して締め付ける作業は非常に非効率で、全エネルギーのたった10%しか締付けに役立っていない、と言うわけだ。いや、ホントなのである。人間のやる作業の内で、ネジ締め(ボルト締め)ほど不経済な仕事は外に無い。残りのエネルギーは全て摩擦によって「蒸発してしまう」。
魔女みたいに、摩擦の恐ろしさがお分かりかな?
それよりもここで重要なのは先の※の部分で「約40%がナットのめねじとボルトのおねじ部の摩擦に消費される」という点だ。これは次の意味深長な秘密を教えてくれる:
ナットを回わす力の約40%近くが、ボルト頭を連れ回わらせようとする「原動力」になっている。
一瞬惑わされそうな説明だが、こう考えれば分かりやすい:ナットを回すエネルギーの40%がボルトのおねじに伝達される。いかがわしい表現で恐縮だが、伝達手段は、おねじ・めねじ間の互いにこすれ合う面の摩擦以外に媒体は無い。
摩擦があるならクリームでも塗れば良さそうなものだがそれはさて置いて、「ボルト頭はこのおねじ・めねじ間の摩擦によってしか回わされる筈がないじゃないか!」と開き直って思考をすれば、ハタと気付く。実はそう考えて筆者もハタを会得した。工学系の人でもハタとは気づき難いものだ。




