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石川啄木
考え得る全ての可能性と影響を排除して、外径や厚みの違う5~6種類を使って、二度目の実験を慎重な上にも慎重に敢行した。近くにいる社員へは、実験中だから物を言うなと命じた。
ワシャーが「(連れ)回るか・回らないか」、それだけに何日も集中した。独りで土・日も昼飯抜きで繰り返したから、近所から「可哀そうにあの年寄り、年中無休でボロ布みたいじゃないか。余程会社が苦しいに違いない」と、噂がたった。
結果、噂以外に奇跡はついに起こらずーーー、くたびれ儲けで何も儲からず何も発見出来ず、先と全く同一の結果を得て、屈辱的な敗北を噛み締めた。
試験後の擦り傷のついたM16用のワシャ一枚を手のひらに乗せて、啄木みたいにじっと眺めた。もはやゴミ箱行きだ。表面(上面)には、ナットがこすった跡が薄白く付いていた。引っくり返して裏面も眺めたら、床面でこすれた跡がやはり薄っすら付いていた。サイズの異なる二枚目のワシャーも眺めた。啄木は飽きもせず三枚目も四枚目も眺めた。六枚目を眺めたのは意地である。




