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絶滅種
ところがーーーどっこい、強い者は女。
「こんなビル一つが買えないようなら、もともと会社なんて始めるべきじゃなかったわ」
行動が何時も慎重な配偶者の言葉とは思えなかったが、この一言が私の背中をどやしつけた。ウエルチが「集中と選択」の理論を提唱する遥か以前の太古の時代に、「一位になれないなら、初めからやるな」とけしかけられたのと同じ。
多大なローンを組み、ビルの購入を決行した。最小の会社が、一夜にして同業者の中で店の構えだけは最大の会社になった。退路を断たれた私は、仕事と食事の為の時間、それ以外の時間なんてある訳がなかった。死に物狂いで太鼓を叩きまくり、ローンを五年で完済。
七つ年下の配偶者に今も頭が上がらないのは、この時以来で条件反射で訓練されたせい。隙間産業で小さい業界だから、一位と言っても依然として零細企業であることに変わりはないが、ウチの頑張りのとばっちりで、同業の幾つかの成績の悪いヤツらは、絶滅に追い込まれた。




