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◎第十二話: 「わらび餅の女」の話 

第十二話:「わらび餅の女」の話 

1.常石造船


 この四月の初旬、(神戸から)瀬戸内海沿いの広島県の福山へ夫婦で出かけた。七十一と六十五だから、平均値は六十八。日・月曜日に掛けて車による一泊二日の旅。 元はと言えば、配偶者が「ネット・一休さん」で、高級だのに八割引きという激安のホテルを引き当てたから。彼女は節約精神が旺盛で、「XXX割引!」とか「激安!」と聞くと、異常なまでに熱心になる。今までに夫を節約をしなかったのは、不幸中の幸いだ。


 ホテルの部屋の窓から常石造船の工場が望めたーーーと言えば、造船関係者なら「ああ、あのホテルか」とピンと来るかも知れない。ホテルの株主が常石造船で、造船所へ来訪するお金持ちの船主達への「迎賓館」を兼ねているから、部屋の造りはなかなか上等。


 夕食には、敷地内で別棟になっているレストランで、和食を選んだ。食べながら、折りしも瀬戸内海の島影に沈みつつある赤い夕日を眺めたが、これは絶景。食事も海の幸を中心に、ご馳走であったと私は絶賛した。

 が、同じご馳走を食べても、「京都に比べると洗練が足りない。焼き魚と刺身とわさびは何処で食べでも味は同じーーー」とは、配偶者の弁。だから二人合わせて平均値を採ると、私達は生半可な食通である。


 料理へだけでなく、彼女は私へも他人へもなかなか批評が手厳しいが、これは抗生物質の投与でも容易に治せない。が、幸い私は昔からマゾっ気があるから、こんな鉄みたいな女の方が、反って身の引き締まる思いがして、持病のぎっくり腰には利くようだ。


 夕食後には二人でホテル内のバーへ押しかけ、コップ一杯のビールを水で割って二人で手分けして飲み、「流石に常石のビールは利くなあ、ああ、酷く酔っ払らった!」と言い合った。二人とも下戸だから、ここでは鉄の女も私と似た者夫婦になる。


 二人の旅は、今回に限らず、ホテルにただ「泊まりに行く」だけが目的、の場合が多い。あちこち忙しく観光には回わらない。投宿した部屋で寝転んで本や新聞を読んだり、二人でホテル内の喫茶室でお茶をし、もしプールでもあれば(私の場合に限るが)軽く泳いで、その後ホテル内のレストランで、先の通り大概和食となる。若い連中みたいに、部屋で抱き合ってせっせと邪悪な行為に励まなくても、人生はこれで充分楽しめる。


 一泊後、翌朝十時過ぎには棲家の神戸へ向けて発進し、私の運転で何処へも寄らずまっしぐらに戻った。ホテルから三時間半。まっしぐらとは高速道で時速80kmで充分速いと思ったが、他の殆どの車が、私達をゆうゆうと追い越して行く。

 これを眺めて、警察の取り締まりが「手ぬるい!」と言って、鉄の女は義憤に駆られずにはおれなかった。




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