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一矢を報いた
翌年の年賀状を出す時に、私は一筆を書いて返した:「他人の好みや運で左右されるような人生を、若い時から私は避けました。だからT社を辞めたーーー」
これは四十数年前、そのまま貴方の下でずっと仕事をしていたなら、(貴方の好みに合わなかった)私は同じように、つまはじきにされて最終段階で出世出来なかったろうーーー、というキツイ皮肉である。
翌々年から以後H元部長から二度と年賀状が来る事は無くなった。これを眺めて、「勝った!」と私は感じた。人生に頂上は一つしか無い。一部上場企業と、それに比べればこっちは吹けば飛ぶような零細企業。けれども、規模が違っても専務と社長は違うのである。証拠に「私の履歴書」の執筆者に、社長や会長は居ても専務は一人として登場しない。四十年目にして、私は一矢を報いたのである。
話は未だ終わりではない。




