出世の意欲に燃えた
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先に述べたように私は大学卒業後、上々とまで行かなくても一部上場の大手企業T社へ入社した。入社の前に面接があったが、何故か会社のNo.2に相当するS専務のおメガネに叶ったようだ。
青二才のくせに、会社の経営はxxxであるべきだなんて、聞きかじりの知識をよどみなく披露して見せたせいではなかったかと思う。いや、他の人たちがロクもでないことを言ったか、何も言わなかったから、私がネオンサインみたいに目立ったせいだろう。
気を揉むことも無く入社してふたを開けてみると、同時入社の学卒20名の中で私は特別訓練コース生に選抜されていた。会社は輸出を重点的に伸ばそう、と考えていた時代であった。特別輸出要員として工場研修・営業研修・研究所勤務など、他の19人とはおよそ違った多種類の研修コースで目ぐるましく追い回されたから、数か月ごとに新しい暇つぶしを楽しめた。
同僚らは半年ほどの研修で各部署へ乱暴に投げ込まれた。私一人が1年以上の勉強とプログラムされた訓練でみっちり仕込まれたから、こうなると、どんなバカでも賢くなる。ついには宇宙飛行士になってもおかしくない。会社も私へ期待を掛けていたのだろう、それが感じられた。
エリートコースの訓練を受けながら、張り切っていた。将来はこの会社を背負う地位になり、あわよくば社長を狙ったから、目はらんらんと輝き出世の意欲に燃えていたのは確かである。
けれども結局7年半辛抱して、T社を辞めた。終身雇用真っ盛りの時代で、選んだ会社を大卒が辞めるのは珍しかった。同僚は驚いたが、理由が二つあった。




