◎第十一話: 「中国産ピーナッツ」の話
第十一話:「中国産ピーナッツ」の話
暖かくなってきましたから、すき焼きやしゃぶしゃぶは止めて、昨日の夕食は久しぶりに「そうめん」に致しました。 家が和風だから、それに合わせた訳ではありませんが、私が作ったのです。腰の強い「揖保の糸」で、兵庫県揖保郡産。
薬味は、細切りにした薄焼き玉子・みょうが・きうり・青じそ・かまぼこ・山椒・ゴマ・海苔。出汁は自家製ではなく、キッコーマン社製。最近は、下手に作るより遥かに美味しい出汁が、既製品であります。
配偶者はそれだけですが、私は鯖の缶詰を一つ開けて加えました。男には充分な蛋白質が必要です。
食後は、会社の帰りに味の良い店で買って来たイチゴのショートケーキと、バナナ半本づつ。その後が未だありまして、食後の定番ですが、配偶者共々ピーナッツ10ケづつ、中国産。なぜ、最後の仕上げが、中国産のピーナッツかと申しますと、彼女のおしゃべりが関係しています。
無口な私に比べて、彼女はおしゃべりが好き。これは、夫にかなり慣れて親しみを持っている証拠です。気を許しているとも言えます。世間では結婚していても、体は簡単に許しても気を許さない夫婦というのは案外多いものです。「ウチの嫁さんは、ほとんどしゃべらないよ」という夫がおれば、女にかなり嫌われています。普段、エサをやり足りないせいではないでしょうか? 充分な事を尽くせば、直ぐなつく筈です。
こっちは、彼女の話を拝聴するのは必ずしも嫌いではなく、時々はヘエッ!とか、エライコッチャ!とか、女子高校生みたいにウッソ!の相槌も打って、手馴れたもの。が、話が余りに長くなりますと、椅子に腰かけている腰が痛くなります。ソウメンが終了して、席を立とうとなっても、向こうはお構い無しにしゃべり続けるからです。
話の途中で立ち上がるのも悪いし、なるべく軽音楽の積もりで聴いております。相手が忙しくパクパク口を開け閉めしているリズムを眺めている内に、私も口寂しくなり、こっちも口を動かすべきだと考えた対策が、先のピーナッツ。
袋から出して、ぽりぽり食べておりますと、それを見て「我にも頂戴!」と言うから、勘定して十粒を与えます。中国産で農薬の毒がきついから、大量に摂取すべきでないという理由で、十粒。六十過ぎではありますが、妊娠すれば赤ちゃんに悪影響を与えるからです。
本当は十粒に別の理由があります:おしゃべりしながら、女がポリポリ食べている内に十粒目で、必ず女の話が一瞬途切れます。十一粒目が無いからリズムが狂って、舌がけつまづき、会話がもつれる。この瞬間を逃さず、さっと立ち上がるや、「さあ、(皿を)洗おうかな」というのがこっちの戦術。
やっぱり、何と言っても男は、地球の高等動物でありますからな。火星人の女とは、出来が違います。
完
比呂よし




