◎第二話: 「どう、試してみる?」の話
(まえがき)
男が生きる為には配偶者から愛されるだけでは不十分で、何時も何かしら愉しみが必要だ。ワクワクする愉しみは、自分で作り出すに限る。マッサージ教室へ行ってみよう!
「どう、試してみる?」の話
1. ドッキーン!
七十になったのを機に、毎週土曜日に服装を選んで出掛ける場所がある。言わずと知れた、若い女の処。最近では六十三の配偶者が、やっと怪しみ始めた:
「会社へ行くよりも、何かはつらつとしているわねーーー」
そんな励ましの声に、つい「ドッキーン!」となるのは、どうせ出掛ける本人にやましい処があるからだ。
土曜日の半日、私は神戸元町にある教室に通って、マッサージの勉強をしている。 もう半年になる。教室を開いているのは優しげな顔立ちながら腕っ節の強そうな、四十を幾つか越えた逞しい女講師。
初回の入学の面談で、生徒が女ばかりと聞いて腰を浮かせ掛かけた私へ、女講師は私を強く押しとどめ、そんな事くらいで男が逃げてはいけない、愛は信仰ではなく力と技術であると力説した。
コースの受講料は分割払いで十八万円。金額を聞いて再度腰を浮かし掛けたが、老人向けの巧みな雑談で言いくるめられ、これが骨身にしみた結果受講を継続してしまった。とは言え、以下を読めばこの料金が安いもの!と判る。
さて、半年に渡る教室での汗とよだれを流す研鑽の甲斐あって、私はやっと今月末、クラスを首席で卒業の予定。 もっとも卒業生は今回私一人だから、首席を独り占め出来る訳なのだが。十二名の同級生のうち、私以外の十一名全員が女。花の中の雑草一本、無い方がましの死に損ないとは、私の事。
女達は未だ卒業せずに奥義を極めるために、大学院に相当する「応用オイルマッサージゴールド専科」へ進学するのだが、私はこの辺りで中途卒業する事に決めた。
十一名の女達の中で七~八名は、将来マッサージサロンを開きたい、という事業家の夢がある。 残りの三~四名は、学んだ技術を活かしてホテルのマッサージルームなどの仕事に付きたいという。クラスの二人は既婚者で残りは独身だが、独身達の結婚願望は希薄なようだ。
私が通う土曜日のクラスの生徒は「基礎コース」で、先に述べた通り私を含めて十二名。私以外の全員は「うら若き乙女」で、年齢構成は二十代がニ名、三十代が六名、四十代が三名。私の老眼を通して見れば、四十代も立派に「うら若い」。 こういう風に条件が整えば、お察しの通り話が「妖しくならない」方がむしろ不自然。