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◎第七十話:「私の履歴書」の話
◎第七十話:「私の履歴書」の話
毎週土曜日、複数の人に英作文を教えている。無料のボランテイア教室である。使うテキストは、五十年前に書かれた英文で、書いた本人はT社の輸出部の当時のH部長である。
この会社は私が大学を出て直ぐに入社した就職先だったから、つまりかっての私の上司である部長が取引先へ出した書信の写しという事になる。挨拶文であったり、礼状であったり、ビジネス交渉文で、どれも力と真心の籠った名文だと、今でも思っている。
私はT社に六年居て転職し、以来この歳(78)まで何度か引っ越しを繰り返したが、H部長が書いた文書の写し数百枚の束は捨てる事無く、手元に残している。これが英語を教える教室でテキストになっている次第だから、もし本人が知れば、大切にしてきた私に感謝を感じ、嬉しく思うかも知れない。
今の歳になって、生徒に教えつつそれらを改めて読み直すと、文は人なりというが、その通りで、当時は(自分が若すぎて)気づかなかった書き手の人格の裏側が透けて見える気がする。それなら、さてーーー、当時のH部長の人柄はどうだったろうか?




