◎第六十七話:「英語」の話
◎第六十七話:「英語」の話
ウチはネジ(=ボルト)を締め付ける機械を輸入販売している。好んで偉ぶる積りはないが、扱う製品が特殊だから「エンジニアリング商社」と称している。輸入先はドイツ・英国・カナダ・イスラエル。社内に外国語が飛び交っているなんて聞くと、恰好いいだろか?
あにはからんや、飛び交うのは実は日本語ばかり。世間にはそんな誤解もあるから、私が週二で通っているスポーツジムで、目下そこでアルバイトをしている女子学生の一人(大学一年生)が伝え聞いた。「わあ素敵、英語ばかりのそんな会社で働きたいわあ! ねえ、私が大学を卒業するまで生きていてよ!」と白髪頭を眺めて言った。英語を専攻しているらしいが、私が直ぐ死ぬものと計算したらしい。
顔の好い女だが、中身の無さそうなジャリン子をこっちは相手にしないから、仕方なく早めに退治しようと思った。一刀両断にこき下ろす代わりに話をはぐらかして「貴方の歳なら、素敵なボーイフレンドがいるんだろうね」訊いた。
「そんなの居ないわ。私、お父さんを好きなのよ」と応えて、「なにせ、カッコイイんだから」とのたもうた。
足元をすくわれた気がして、ボーイフレンドに対する敵愾心が一気に薄れた。
「フ~ン、お父さんの歳は幾つなんだい」と興味無さげに返したら、
「もうすぐ定年よ。お腹が少し出ているけれど、何せ顔がイカスんだから」と、比較対象としてこっちの顔をまじまじと眺めた。眺め方が、いけ好かない。それにしても、女の誇らしげな様子はどうだ。
こんなのに限って、うかつに仕掛けてホテルへ連れ込んだらすぐ泣かれて困るんだ。父親を好きな女の顔を眺めていたら、何故人類が絶滅しないか大いに謎だが、お陰で反撃の一打を返す気が無くなった。




