いつかいっしょに
題名:「いつかいっしょに」
「これは大きいぞ」
つかまえられたかぶと虫は、虫かご入るものかとていこうしますが、知晃は無理やり入れました。
「もっともっとつかまえるぞ」
知晃はそう言ってどんどん森へ入ってゆきます。ふと気がつくと、
「ここは何処だろう。ぼくは迷子になっちゃったかも。それに、のどもからからだ」
すると、とつぜん目の前にカフェが現れました。かん板には「カフェ カブカブ 冷たい飲み物あります」と書いてありました。知晃が思い切って中へ入ってみると、
「いらっしゃいませ」
中には自分よりも大きいめすのかぶと虫がいました。
「お客様、今朝マスターが、かんばんメニューのじゅ液ジュースを採りにいったきり帰ってこないので、その代わりに草のつゆを飲んでいってください」
そう言って、かぶと虫は知晃を切りかぶのいすへ案内しました。するとおくから、
「まさか、人間につかまったんじゃないだろうね」
てんとう虫たちがひそひそ声で話しているのが聞こえます。
席に着くと大きなかまが目の前に出てきました。そのかまに、目をまん丸にした知晃の顔がうつっていました。かまきりです。
「あんた、見かけない顔だねえ。新種かい」
知晃は、こくこくと首をたてにふりました。
「そうか、新しい仲間は大かんげいだ。おれたち虫はつかまったり森が減ったりして、仲間が少くなっているのさ」
その話を聞いて知晃はどきっとしました。何と答えようかまよっていると、
「サービスです。あまいですよ」
かぶと虫が色とりどりの不思議なおかしを出してくれました。
知晃はむらさき色のおかしを一つ食べました。するとさっきまで晴れていた空がどんより雲になり、大雨になりました。次に、白いおかしを食べました。すると真っ白い雪がしんしんとふってきました。虫たちはさけびました。
「ひゃあ、寒い、寒い。ぼくたち虫は寒いのが苦手なんだ。早くちがうのを食べて」
そうせかされて知晃は急いで全部口に入れました。すると、大雨も雪も消えてきれいなにじが空にかかりました。するとかぶと虫が、
「帰り道はにじの向こうですよ」とドアを開けました。
知晃が一歩カフェから出ると後ろから、
「帰り道、マスターに会ったら早く帰るように言ってくださいね」と声がしました。
知晃がそれを聞いて、
「あの」と振り返ると、
「知晃、知晃」
お姉ちゃんの声がしました。
「ここでねてたらだめでしょ。あんまりおそいからむかえに来たんだよ」
知晃が辺りを見回すともうカフェは無くなっていて、夕方になっていました。ふとつかまえたかぶと虫と目が合いました。知晃はそのかぶと虫をそっと木に放しました。
「いいの、せっかくつかまえたのに」
知晃はうんとうなづきました。
帰り道、すっかり日がくれました。知晃がポケットの中に手を入れると、黄色のおかしが入っていました。知晃がぱくっとそれを食べると、夜空に見たこともないような大きな流れ星がきらっと光りました。
「知晃、何かお願い事をしよう」
二人は手を合わせ、目をつぶりました。お姉ちゃんは、
「何をお願いしたの」とききました。知晃は言いました。
「虫博士になれるようにお願いしたんだ。しょうらい虫たちが安心してくらせる森を守れるように。そうできたら、いっしょにじゅ液ジュースを飲むんだ」
お姉ちゃんは笑いながら、
「じゅ液ジュース。それ、おいしいの」と言いました。知晃はうなずきました。
「きっとおいしいよ。だってお店のかんばんメニューだもの」
完
(一部、遠藤つばさ先生指導)
2019.12.26
 




